2022年12月12日月曜日

Mic and Mod U67キットの雑感


DIY U67



U47製作の箸休めに、Mic and ModのU67キットを買って作ってみた。

これは文字通りNeumann U67モデルの真空管マイクのDIYキットで、699ユーロとキットとしてはだいぶ良いお値段ですが、ブラックフライデーのセールで15%オフになっていたのと以前から試してみたかったので思い切って他のパーツ類と一緒に買ってみました。

フランスのメッツから配送でしたが、10日ほどで日本に届くという感じでした。(ベルギー〜ドイツのライプツィヒ経由で空輸される模様)



キットの内容について

本キットはU67モデルのキットではありますが、厳密なオリジナルU67のクローンという訳ではありません。

Neumannオリジナルの回路図を見ると分かる通り、U67の回路構成は超シンプルなU47のそれと比べるとだいぶ複雑になっています。

K67カプセルにEF86という五極管を増幅部に使う……というのは知っている方が多いと思いますが、トランスの出力側にフィードバック専用の巻線があり、そこから増幅回路にフィードバックをかけて特性を制御するというやや特殊な回路になっています。

この回路を再現しようとすると専用のコアと巻線比を持ったトランス(BV12)を用意する必要があり、また部品点数も多くなります。そこでU47と同じような単一タップのシンプルな出力トランスに変更し、それに合わせて回路を調整・簡略化したものが本キットです。

言い換えればK67+EF86という素材の組み合わせを純粋に聴くマイクという感じですね。



製作・組み立てについて

パーツは一部を除いてすべて揃った状態で送られてきていて、(筐体とパワーサプライは完成品が付属)基本的には3枚の基板実装と配線のハンダ付けだけで完結されるようになっています。


基板は3枚だけ


こう書くと簡単そうですが、組み立てにあたってマニュアルがやや不親切な部分が多く、一部の部品は空中配線が必須、組み立て順序をひとつ間違えると大幅に時間が掛かる等、工作難易度自体はやや高めといった印象です。普段アンプ作っている人でも少し頭を悩ます部分があると思います。

ちなみにMic and Modオフィシャルでも「初心者がこのキットを製作するのは推奨しません」とマニュアルで断言しています。


・真空管機材の内部はDC120V以上の高電圧が掛かっている部分も多く、危険な感電をする可能性もある

・マイクカプセルのような高価な割に一瞬で破損する部品を使う

・正確に測定する機材や環境がないと動作が正常かどうか分からない

こういった要素があるので気軽に手を出すのは個人的にも薦めません。経験者向け。


今回の製作では、まずキットの純粋なクオリティーが知りたかったので基本的にほぼすべて付属のパーツで製作しました。互換性がありそうなNOSのコンデンサや高抵抗も大量に所有していますが、今回は出番なし。

唯一変更したのは、付属の10kΩ抵抗が明らかな安物の金属皮膜抵抗だったので、手持ちのタクマンREY抵抗に変更したくらい。このキット、付属している抵抗は種類がかなりバラバラ。高抵抗は種類が限られるのでまだ分かるんですが、自分が購入したものは3-4種類くらいの抵抗が混じっていました。なんだかなあ…。

といってもパーツの内容物を見る限り、カップリングや位相補償に使うコンデンサーはWIMA製のMKSシリーズやポリスチレンコンデンサーなどが付属していて、部品のクオリティーはしっかりしています。もしこれで音が悪かったらカプセルかトランスに問題ありという感じでしょう。


プリアンプ基板。下側が出力トランス


製作時間は賞味2時間くらいだったと思います。前述の通り、マニュアルが不親切なので不慣れな人はもっと掛かりそうな気もします。

このキットでは真空管基板とメイン基板を垂直にハンダ付けで固定(!)するという荒業&特殊な工程がありますが、その手順を間違えると大変な時間ロスになります。(先にスイッチ周りを完全に固定してしまうとハンダ付けするスペースがなくなる)

あと自分が買ったキットでは、基板を固定する金属リブが最初から少し変形していて、基板を固定するときに曲げて修正しないといけなかったりと、度々手を加える部分もありました。キットということでこのあたりの精度はまちまちなので、DIY初心者には向かない部分でですね。


真空管は五極管EF86


最後に付属の真空管をソケットにセットします。付属していたのはエレハモ製のEF86EH選別品です。回路図ではEF806S表記ですが、いまはEF806Sじゃないみたい。コスト高の影響かな。

まあ細かい気になるところは多くあるものの、なんとか完成。



実際使ってみた感想

完成したマイクと付属のパワーサプライを7pinマイクケーブル(これも付属している)で接続します。ちなみにパワーサプライにはACケーブルが付属していますが、これはフランス等ヨーロッパの230V圏で使われているもので使用できません。自前で用意する必要があります。

さっそく作ったマイクを接続して、テストします。


チェック用のプリアンプを立ち上げると、無事一発で音が拾えました。(まあキットだしね)

指向性切り替え、PAD、HPFのスイッチも正常に動作を確認。

問題なさそうなので、とりあえず自分で軽く歌って音質のチェック…。


うん、非常に太くふくよかで、エッジの拾い方が心地いい音だ。高域はおとなしめながらシルキーな質感で、突出している帯域は感じない。かといって埋もれるようなモッサリ感もなく、ある程度レベルが入ると非常に心地の良い倍音感が出てくる。これは高級機種でないと出ないニュアンスだ!

いままで安物から高級品まで相当な数のU67クローンを聴いてきたけれど、どれもこれも高域がギラギラしていてまったく良い音質には聴こえなかった。(Pelus○、S○undeluxeとか本当にひどかったぞ…)今回はキットということであまり期待してないかったけれど、良い意味で予想を裏切りました。期待値以上の音だと思います。

本キットの回路図を見ると分かる通り、初段EF86のグリッド抵抗は1GΩとオリジナルのU67(400MΩ)よりかなり高い値になっているのですが、それによってハイ上がりでキツい音になることなく、心地よい高域が再生されます。

音が良い要因は完全に分析はできていないけれど、カプセルの性能が良いんだと思います。素性の良さを感じます。おそらくヨーロッパもしくはアメリカでハンドメイドされた選別品かと思います。安マイクによく搭載されている中華製のカプセルだと大抵高域がザラっとしているので。キットの大部分はカプセルに費やされてるのかもしれません。

今後、真空管をエージングしていくとまた音質が変化していくと思うし、NOSのTelefunken  EF806Sに差し替えて音の違いなども吟味していく楽しみもまだあります。

プリアンプ部分の回路は電気的にもうちょっと改善の余地がある気がしなくもないので、パワーサプライなどの電源分も含めて諸々に手を入れていく予定です。


(U47製作編へつづく)





追記1

真空管は付属のEF86EHから東ドイツRFTのEF86に差し替えています。ダイヤマークなしのTelefunken作っていたところですね。高域がよく伸びる印象になりました。(西ドイツモデルのマイクに東ドイツの球とはこれいかに)


追記2


オリジナルでも採用されていたTelefunkenのEF86、EF806Sも入手したので差し替え。Telefunkenは全帯域のバランスが良く、高域のスムースさとレベルが入ったときの滲み感も適度に心地よい音でさすがといった感じ。ちなみにEF86とEF806Sでの差は殆ど聴き取れなかった。EF806Sは海外からNOS品を買ったのでお値段は張ったけれどそれ相応の価値はあるように思う。

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