コントラバスはヴァイオリンほどでないにしろ歴史と伝統のある楽器なので歴史上で有名な名器(ボッテジーニ愛用のテストーレなど)は数々あるのですが、やはり『ちょっと謎に持ち上げられすぎじゃない?』っていう製作者やブランド(ラベル)も結構あります。
コントラバス(ウッドベース)ってwebに日本語の有益な情報がない(数が少なすぎる)ので、一部の発信者が書いた極端な意見や感想が実態として流布されがちなんですよ。販売店の在庫データもsoldするとすぐに消えてしまう。自分が色々な実体験を書き残しているのも、情報源が増えて欲しいという側面があります。
例えば、ベース界におけるJohn Juzek(ジョン・ジュゼック)氏の楽器。
先に書いておくと、Juzekというのはチェコの楽器商であるジュゼックさんがビジネスとして展開していた楽器ブランドであって、メーカーではありません。その殆どはドイツ周辺でOEM生産されていたものです。つまりプラハのラベルが貼られているからといって、チェコ製でもないんですね。
今の定説では、アメリカに多く輸出されたJuzek製ベースの殆どは、ドイツのBenedikt Lang(ベネディクト・ラング)の工房で作られていたということが判明しています。(一部の楽器はエマニュエル・ウィルファー製)つまり西ドイツの一般的な量産楽器だった、ということです。
もともとは、アメリカに輸入されたヨーロッパ製の楽器では安いクラスの楽器でした。Juzekは当時学生向けの廉価な楽器という扱いだったようです。まだ楽器の選択肢が少なかった時代、多くのジャズ・ベースのプレイヤーが使っていましたが、その理由はとびきり音が良かった、というよりも経済的な事情が多い気がします。値段の割にはしっかりしている、つまりコスパが良い楽器だったのです。
実際に多くの名だたるプレイヤーがJuzekのベースを使用していた時期があり、ロン・カーター、エイブリー・シャープ、クリスチャン・マクブライド、ジョン・パティトゥッチなど。有名人が多いですね。
日本だと納浩一さんが使っていることでよく知られていると思います。
時代が経つにつれて【安い割に音が良かった楽器】はいつの間にか【ジャズ・ベースのレジェンド達が使用した楽器】に置き換えられていったんだと思います。実態よりもストーリーが価値を上げてしまった、っていう現代ではよくある話です。
自分もベースを始めた頃は『納さんの使っている楽器』として認知していましたし、すごく特別な楽器なんだと思い込んでいました。
十数年前、いつもお世話になっているアトリエハシモトさんに、偶然Juzekのベースがあったんです。その時に興味があったのですぐ弾かせてもらいました。焦げ茶っぽいニスで小ぶりなガンバ型だったのを覚えています。
「うーん。Juzekっていうだけで凄く持ち上げる人多いけど、作りも木材も普通のベースですよ。むかし、沢山作られたドイツの普通のベース」
試奏したあとに橋本さんがポツリと呟いたひとこと。自分が橋本さんを信頼しているのは楽器の実態や素性をキッパリ言ってくれること。職人でも自分の修行先や国に対してはやたら贔屓目な人は今だに多いので、こういう分析ができる人が少ないんです。
実際、今まで3本か4本Juzekのベースを弾きましたが、ブランドのバイアスを差し引いた気持ちで試してみると、たしかに古いドイツ製の楽器という以外には特に特別なものは感じませんでした。
弾き込まれている個体は鳴るなあとは思いますけど、今持ってるザンドナーとそこまで差は感じないかなっていう。(流石に現行の安いクラスの楽器よりはだいぶ良い木材が使われています)
ちなみに、アメリカのベース工房Upton Bassでは、こういったアメリカに出荷された古いJuzek、中でもダメージが多いものをリペアして販売するビジネスを展開しています。価格は1万ドル前後。安くはない。
崩壊したボディを徹底的に直し、継ぎネックはもちろん表板も完全に作り変えられていますが、それでも欲しい!という人はこういうところから買うのも手だと思います。
でも音だけで選ぶなら、今はハンガリーとかルーマニアの楽器買ったほうがいいんじゃないかなあとは思います。古いものに憧れる人が居るのは仕方ないけれど!!
そんなところです。なんか間違ってたら教えて下さい。

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