2019年6月5日水曜日

モニタースピーカー自作への道 2

前回までのあらすじ↓

モニタースピーカー自作への道 1

電流帰還DCアンプをつくる 1

2ヶ月半ほど経ち、加工を依頼していたエンクロージャーが届きました。

非常に心待ちにしていたので、届いた瞬間軽く小躍りした。エンクロージャーの完成を待っている間、いままで使っていたSC204が1本故障し、長いあいだ音楽をモノラルで聴かざるをえなかったからだ。

そして早速スピーカーユニットAlpair10Pを取り付けた御姿がこちら。





完成したスピーカー on ぼのぼの


非常に美しいスピーカーに仕上がった。

フロントバッフルの板材はヤマザクラ(山桜)の1枚板だ。

材の厚みは19mmもあり、サイドのみ継ぎ板だが6面すべてがヤマザクラで構成されている。

継ぎ目のない1枚板を入手するのは非常に値が張るが、今回は職人さんが原木ごとストックしていた材から製材して使ってもらうことができた。ヤマザクラは原木自体が大木にはなり難い木なのであまり大きな材は取れないのだという。そういう意味でも、非常に価値のあるスピーカーとなったと思う。完成するまで木目などは確認しなかったが、高級家具のようなバッフル材の美しさは想像以上だった。


上から見ると、このような形


そしてこのエンクロージャー、台形型になっている。
天面を見ると、前方から後方にかけてスラントしているのがわかると思う。

平行な面を失くすことで左右の定在波を減らす狙いだ。またユニットの背面がバッフル面より狭くなることで、ユニットの真後ろに飛ぶ音や前後の定在波も減らすことができる(これが意外と対策がしづらい部分)

実際のサイズはW217*D270*H438。一般的な7-8インチ級のモニタースピーカーよりもかなり大きい。このユニットを使ってのブックシェルフだとこのぐらいの大きさが限度だろう。エンクロージャーの容積は、約14Lといったところ。十分な大きさだ。

ちなみに大まなかなサイズとダクトの共振周波数(45Hz)・バッフル材などは指定したが、実際の細かな仕様・仕上げは全部職人さんにお任せした。これが功を奏した形となった。


現状の仮置き


今回、暫定で今まで使っていたスタンドに乗せたが、本体が以前のeve audioよりも倍近いサイズになったため、適正リスニングポイントが頭より高い位置になってしまう。なので設置位置は飽くまで仮置きだ。スピーカーに高さがあるので、80-90cmくらいの独立スタンドに乗せるのが恐らく正解だと思う。机に直置きでも高さは適正位置にはなるが、低音が出るため、共振を考えると推奨はできない。

金属スタンド>30mm御影石>オーディオテクニカのインシュレーターというセッティングは以前のままだ。

さて、エンクロージャーが届くまでの間に作った電流帰還パワーアンプをつなぎ、このスピーカーの音を聴いてみよう。


(試聴中)


……。



・ファーストインプレッション


一言でいえば、フルレンジらしい、自然かつダイナミックなサウンドだ。
それでいて、上下のレンジの狭さはほぼ感じない。繊細な表現力がある。


低域の出方は、無理やり出している感じがなく、自然に浮き上がってくる印象。特にいままではしっかりと音程感が聴こえていなかった40Hz付近までフラットかつ真っ直ぐ出ている。100Hz付近の鼻詰まり感や、バスレフ臭さは無い。特性自体は30Hz付近まで出ており、なだらかにレベルは落ちるものの、空気の揺れとなって身体で感じる帯域まで十分にカバーできている。エンクロージャーの容積を15L弱まで大きくできた恩恵もあると思う。バスレフポートの共振周波数を45Hzにしたのも正解だった。

・ ・ ・

ちなみに低音チェックのリファレンスにしているのは、Anita Bakerのアルバム『Compositions』と、宇多田ヒカル『First Love』収録の『in my room』だ。前者は主にトータルバランスでもリファレンスとなっているが、参加しているネーザン・イーストによる5弦ベースのプレイに注目。ベース最低音Low-Bから高音まで巧みに演奏しているので、エレクトリック・ベースの音域をフルでチェックするのに最適なリファレンスとなっている。

一方宇多田ヒカルの『in my room』は打ち込みによるキック&シンセベースの重低音が聴ける。こちらは20〜30Hz台の最低域が出ているかすぐに分かるので、ローエンドのリファレンスだ。どちらのトラックでも、身体を震わすような重低音がしっかりと聴き取れた。

・ ・ ・

中域は音の立ち上がり(粒立ち)がタイトで、スピード感がある。中域の自然さに関してはそもそもフルレンジであること自体が最大の恩恵と感じた。クロスオーバーがなく、点音源なので、音の立ち上がりや減衰に一体感があり、繋ぎ目がなくなめらかに再生される。聴覚的なギャップはない。

個人的には特にアコースティック・ギターやパーカッションなど箱鳴りを収録している楽器の音色がよりリアルになったと感じた。すぐ眼の前で楽器が鳴っているような感覚だ。Alpairのユニットによる性能の高さももちろんだが、無垢1枚板で組まれたエンクロージャーで再生しているという要因もあると思う。ユニットというよりは箱の鳴りによって再現性を高めているといったほうがいいだろうか。

高域もややドライだが非常に自然だ。2wayにおけるツイーター特有のツルっとした中高域ではなく、音像全体に高域がしっかりとついてくるので、変な分離感もない。やはりこれはフルレンジの恩恵とAlpair10の素性の良さだと感じた。ややドライ&アタックが突き出た帯域がまだ残るのはペーパーコーン特有の癖が抜けきっていないことに由来すると推察するが、これはじきにエージングが進むことによって気にならなくなるとは思う。

トータルでは現時点で十分素晴らしいスピーカーになっている。大きな不満点はないが、15kHz以上の超高域はやや弱さを感じた。メタルコーンモデルや、同サイズの2wayと比べても、超高域のブライトさが抑えめになっている。フルレンジの高域特性は低域とトレードオフの関係にあるので物理的に仕方がないが、逆にこの帯域がワンポイントで補完できればパーフェクトともいえる。

ひとまず最初の10数時間における本スピーカーのインプレッションは以上となる。


・ユニットAlpair10Pについて


今回のユニットはMarkAudioのAlpair10Pだが、Alpairには元々メタルコーンモデルのAlpair10Mとペーパーコーンモデルの10Pがある。今回は、実験用として譲ってもらっていた10Pをチョイスした。金属コーン自体の癖が小さいことを配慮しても、10Pのほうが中高域の暴れが小さかったからだ。ちなみに両者では特性自体はほぼ似通った値になっているが10Mのほうがわずかに最低周波数が低く、高域の伸びがある。コーンの表面を特殊酸化処理した限定モデルのAlpair MAOPもあり、サイズはすべてコンパチとなっているので今後はユニットを付け替えて比較していく予定。

MarkAudioのユニットは大きく堅牢な作りになっているが、なぜかフレームだけは樹脂製で非常に脆い。強く締めすぎるとフレームが割れるので要注意だ。なのでユニットをボルトで取り付けるときは電動ドライバーは使わずに手回しで取り付ける必要がある。このクラスのユニットとなるとフレームは金属製が多いが、何か音質的な理由がある…のだと思いたい。


・現時点での課題


おおまかに(予測した通りの結果となって)現時点では満足しているものの、現状は届いたエンクロージャーにユニットをただポン付けした状態で、まったくの無調整。改善すべき点がいくつかある。ひとまず以下のポイントを挙げてみた。


(1)設置状態の改善
現在は卓上スタンド+御影石の上に載っている状態で、ユニットの高さ・設置方法が適正ではない。専用のスタンドを机の後方に設置し、高さを適正位置に。ただスピーカーが大型なので場合によってはスタンドの自作も必要になってくるだろう。アクセサリーなども駆使して制振や音質も積極的にチューニングしていく。

(2)ユニットのエージング
まだ再生を初めて20時間程度の段階なので、まだペーパーコーン特有の硬さがある。今後時間をかけてエージングによる特性の安定を期待したい。Alpairユニットはエージングに時間がかかることで有名。100時間弱ほどは鳴らしてから本格的な計測などを行いたい。

(3)高域ロールオフの対策
軽く特性をチェックしてみると、やはり軸上で13kHz付近からゆるやかに高域がロールオフにしているのが分かった。フルレンジである以上、高域がナチュラルなぶん特性もやや控えめになっている。現時点では高域のノビだけは2wayにやや負けている。しかしモニタースピーカーとして使う以上、20kHz付近まではなるべくリニアな特性が欲しい。出力を予めD/A前にイコライザー処理をするか、6db/octで組んだスーパーツイーターによって補完できるか試みる予定。


ほかは内部吸音材による音質の変化などの実験などもしていく予定。
エージングのこともあるので、長く時間かけながら観測していきたい。

進展があり次第またブログに書きたいと思います。
ではでは。

0 件のコメント:

コメントを投稿