2021年2月12日金曜日

ちょっと小さいベースを作ろう・発端と設計



自分の理想の楽器、もしくは自分に完璧にフィットした楽器が欲しい、というのは誰しもが一度は考えることだと思います。



しかし、自分に完璧にフィットする楽器を探すというのは非常に難しいです。

一般的には楽器屋などに並んでいる吊るしの中から気に入ったものを探すという手がありますが、そういった有象無象から所望するものを探すのは手間も運も必要です。そもそも市場で評価が高い楽器=自分に合った楽器ではないですし、自分の探しているものがまだ世の中に存在すらしていない可能性があります。

誰かに作ってもらうというのも手ですが、それもまた自分の要望を100%汲めるものかというとそうでもありません。例えば無制限の予算をもって何処かの工房にカスタムオーダーをかけたとしても飽くまでもその製作者が用意したテンプレートに則って作られたセミオーダーでしかないからです。(この部分は多くの人が見落としている部分だと思います)

極論を言えば、自分が欲しいものは自分で設計して作るしかありません。

ただし、自分が必要としているものを構造的に自分で理解しているのが大前提になります。

かくいう自分も今までヴィンテージのフェンダーからハイエンドと呼ばれる銘木系まで様々なベースを所有してきました。それらはみな素晴らしい完成度だったものの、“プレイアビリティー”という1点だけに於いては満足したものはありませんでした。(音だけが良い楽器は実際たくさんある)

仮に「これ、良いな。弾きやすいな」と思っても、それは少なくともフェンダー・ジャズベースのような既存の造形と比較しての「弾きやすい」だったんですね。

つまり自分が純粋に弾きやすい、演奏する際に身体的な負担が少ない楽器をずっと作りたかった。

令和の時代になり、モノづくりのハードルは非常に下がっている。

以前のように大型の木工機械や専用の治具を使わなくても木材加工はオープンソースCNCで、安価かつ正確に切削できるようになったし、デザイン用の3DCADもFusion360を始め無料でいくらでも手に入るようになった。知識さえあればホームメイドできる環境は揃っています。

それなら1から作るか!ということに。

以前はストラトプレベを作ったが、あれは決まったフォーマットがあったし、それ故にOEM工場から安定した品質の材料が買えたけど、今回は0からのオリジナルだからそういう訳にはいかない。クオリティーが低かったり音が悪ければ使い物にならないので、演奏性を突き詰めつつ、音も良い楽器を設計しなくてはいけない。ある程度は緻密に。

そういうことなので、まずは製作する新しい楽器に必要な要素を精査していくことにします。

とにかく演奏性が高い=楽に弾ける楽器を作るというのがテーマです。


・弦長は短いほうがいい

まず小柄な自分にとっては従来のベースがデカすぎる、というのが自分にとって問題でした。

ベースの弦長は34インチだと864mm、楽器全体の長さが1150mmほど。座奏時は上体をシフトできるので演奏性には気にならないものの、立奏時は身体の横に大きく突き出たネックに合わせて指を動かすのは腕にそこそこの負荷がかかります。この負荷というのは指のストレッチ≒フレット間隔の問題ではなく、腕の長さ≒上体の可動範囲とリーチの問題である訳です。

なのでネックスケール=弦長は標準の34インチスケールより短くするのは既定路線。

一般的にスケールを短くすると音が悪くなるという風説があるが、特に問題がないのは既にヤマハのMB-75で実感しています。(要はちゃんと作られたショートスケールの楽器が少ないので検証する人がいない)

巷ではFoderaが定番化させた33インチの楽器は既に多く出回っているが、飽くまでも弦の全長が1インチ(25.4mm)短くなったところで体感的には大きな変化はない。なので少なくとも33インチよりは更に短くしたい。

ただ30インチ以下のサイズまで楽器を小さくしてしまうと流石に発音が鈍くなってくるし、弦の振幅がかなり大きくなるのでコントロールのが難しくなってしまう(逆に弾きづらくなる)。さらに弦の太さの関係で、ショートスケールの楽器は弦が専用弦でないと張れなくなるという大きなデメリットがあった。(ペグにテーパーされていない太い部分が巻き付いてしまうため)

そういった要素も加味して考えると、弦長は既に手元にあるMB-75に近い31.5〜32インチ(800mm前後)が良いだろうということに。

音色とテンションのバランスが良いのもあるけれど、この弦長ならばヘッドの形状を工夫して低音弦側のペグとナット(0フレット)の距離を稼ぎつつ、ブリッジ側のボールエンド固定位置を遠ざければ計算上はロングスケールの弦でもそのまま張れるというメリットがある。もちろん、これは先に所有していた820mmスケールのMB-75にロング用の弦が張れる時点で分かっていたのだけれど……。

そういう訳で弦長は32インチ(812mm)に決定。


・ボディは小さくしたくない

前段で“ベースが大きすぎる”とは書いたものの、厳密には楽器全体を小さくしたい訳ではない。

MB-75もそうですが世の中のショートスケールタイプの楽器はコンパクト性をウリにしている場合が多く、大抵ボディも小さく作られています。

ここがどうも個人的に納得がいっていなかった部分で、ネックの長さに比例してボディがどんどん小さくなっていくと座奏時のバランスがあまり良くない。クラシックギターのようにしっかり抱えられるくらいのサイズのほうが安定感がある。

また音色も当然その影響を受ける。具体的にいうと、ボディがコンパクトになるにつれてサウンドがどうしてもタイトな方向になってしまう。(不適切な言葉を使うならボディ鳴りのない音になる)ある程度Fender的なローミッドを出しつつふくよかな音色にしようと思ったらボディサイズはフルサイズ相当なものが望ましい。

つまり、理想はネックは短いけどボディは大きい楽器。

ここではIllustratorを使って実寸台で図面を書きつつシミュレーションしてみることに。

ネックは32インチの22フレットというMB-75とほぼ同じ寸法にしつつ、演奏性は高めつつ…ボディは小さくならないようにと考えたのがエントリー最初の図面です。




ボディは小さくなっているように見えるけれど、カッタウェイが深くなっている部分を除けばフェンダーのジャズベースとほぼ同じ大きさ。(赤線が比較用のJBボディ)そしてアッパーホーンは11F付近まで伸ばしているのがポイント。一般的な楽器は12F〜13Fの位置にストラップピンが来るが、それより延長した位置にストラップピンが来ることによってローポジションがより近くなるので演奏性が上がる。


・ネックの仕様に戻り…

スケールは前述の通り32インチなので全体のリーチ的な部分は解決。さらにプレイアビリティを上げる上で大事なのがネックの形状や寸法です。この時点で決めていたスペックとしては、

・0F付き22Fネック(MBでバランスが良かったので)

・ナット幅・ネックエンド幅はなるべく狭く

・ヘッドは角度付きでストリングリテイナーは使わない

といったところ。

書き忘れましたが、今回製作するのは5弦です。

自分は手が小さいので、なるべく細いネックが良い。幅広のネックは弾きづらいし、ローポジションの低い弦が非常につらい。

5弦ベースとなると一般的なネック幅はナット部分で46〜48mm、ネックエンドは75mm程度という寸法が多い。無論これよりもっとネック幅狭いほうが良い。

何か参考になるものは…と思っているとBB5000のネックが理想的なことを思い出しました。BB5000のネックは非常に細くナット幅が42mm、ネックエンドは66mmほど。しかしBB5000はブリッジのピッチが15mm弱と非常に狭いのでそれ故に実現できるプロファイルといえます。ナット幅はともかく、ネックエンドの幅はブリッジの弦ピッチで狭められる限界は決まってしまう。

もちろんBB5000のように超ナローピッチならばそれでいいのだけれど、それに対応するブリッジやPUを新規に調達することが難しいので、今回は入手性の良いHipshot製5弦用17mmピッチブリッジで想定して設計を進めていくことにします。

さて、17mmピッチ想定だとネックエンド幅はおおよそ70〜72mmという算出です。そして偶然にもアイモクで買える角度付きメープルネック材の最大幅が70mmということが判明。これはそのまま流用できると判断したのでネックエンド幅は70mmに決定。

ナット幅は強度や全体のバランス(ナット幅を極端に狭くするとテーパーが強くかかるので)を配慮して5弦としてはやや細めの44mmとした。オールドのプレシジョンベースと同じぐらい。

数値的なところをおおまかに詰めていったので、次回は素材やパーツ編。

(つづく)

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