(といっても、完成したのは既に一月ほど前だ)
花村さんのポリシーについては前回・前々回のエントリーを参照して頂きたい。
ではさっそく、完成したベース“花プレシジョンベース”を解説していこう。
これが花プレシジョンベースだ! |
花プレシジョンベース (2019年製)
ボディー:極上アッシュ単板一枚板(くり抜きフルアコ構造)
ネック:メープル
指板:ローズウッド
ピックアップ:メーカー不明・Pタイプ
ピックガード:ミントグリーン3P
塗装:オール硝化綿ラッカー
染料:カキツバタの花・日本酒(ボディー)
ノブ・ブリッジ・PUカバー:ケヤキ1枚板
一言であらわすならば、美しく精悍な出で立ちながら、木の優しさを感じる楽器。
ボディー、ネックはすべて硝化綿ラッカー100%による塗装だ。
この青色が写真で伝わらないのが惜しい |
またボディーの沈み込むような青色は、カキツバタの花からとった染料で草木染めしたもの。今年5月に世田谷で採れたカキツバタの花を絞って、それを花村さんが日本酒と調合して染料とした。それをラッカーで手塗り塗装。塗膜が限りなく薄いので、木の導管はむき出しそのもの。
ちなみにカキツバタの花自体は薄い紫色。だけど色を抽出したところこの深い青になったそうだ。科学塗料では出せない自然由来の色合いが非常に美しい。(画像では本来の色合いが表現しきれないので、実物を是非見てね!)
花村さんが花で染め上げた楽器、花プレシジョンベースの由来はここにあり。
マテリアルも続いて解説していこう。
塗装前の単板一枚アッシュボディー |
ボディーはハナムラ楽器に40年以上眠っていた極上のアッシュ1枚板を選んだ。もちろん花村さんの持っている材なので継ぎ目のない完全なワンピース材だ。それを贅沢に裏からくり抜き、ホロウボディ構造になっている。センターブロックはないので分類的にはフルアコ型のベースだ。他社製の楽器で言うと、FoderaのAJモデルや、Citronのスティーブ・スワローモデルが構造的に近い。そしてそれ故にボディは非常に軽い!!(全体重量は、3.70kg)
実は当初はアルダーボディで製作をお願いしていたのだけれど、染料の発色を考えて後でアッシュに変更してもらった。結果的に青色もうまく着色でき、導管もオーガニックなアッシュで正解だったと思う。(アッシュのほうが地の色が白いので、赤茶っぽいアルダーよりも青系の色は綺麗に着色できる)
花村ロゴが可愛らしいヘッド部分 |
組み合わせるネックに関しても、既に製材してから30年ほど寝かせたメープルネック。指板はオーソドックスにローズ指板で、こちらも目が詰まって濃い上質のローズが使われている。
ネック・グリップはFenderのプレシジョンベースと比べるとやや細身で、ジャズベースに近いものをチョイスした。ナット幅は細身ながらも、厚みはしっかり目のCシェイプになっているので安心感がある。太すぎず細すぎずで、手が小さい自分でも非常に弾きやすい。
右がオーダーの元ネタになった“初号機” |
楽器としての基本スペックは隣に吊るしてある“初号機”に準じたものになっているが、ピックアップはPJではなく、シンプルにP一発にした。しかしこのPピックアップが強力で、地を這うような低音が出る。製造元は不明で、これまた花村さんの工房にこれまた40年近く眠っていたピックアップだ。ミントグリーンのピックガードもつけて見た目はFenderのプレシジョンに近いものになっている。
またPUカバーやブリッジのエスカッション、ボリュームノブなどはケヤキの木で作ってもらった。これも花村さんらしいルックスに仕上がるのに一役買っている。
・ ・ ・ ・ ・
肝心の音について。
楽器の見た目が現すように、深く包み込むような低音が出る。
基本の音色はプレシジョンだけれど、フルアコということもあってピッキングするポジションによってはコントラバスのようなニュアンスも出せ、様々な表現ができる。これはFenderのプレベではできない。マグネットPUだけといえども、フルアコの恩恵がしっかりと感じられる音色だ。
ほぼ同じスペックのベース“初号機”と比べると、こちらのほうがやや優しい音色といった印象。ボディ材・ネック材・ピックアップ・塗装は同じだが、初号機のほうが固く重たいアッシュボディーのせいか唸り上げるような“重低音”だけれど、僕のベースは少しだけ軽やかで優しく鳴る。といっても、一般的なプレベと比べると図太いサウンドだ。
演奏中は、ボディーの振動がトップではなくバック側から出てくるので、お腹に直で振動が来るという珍しい体験ができる笑
フルアコということで大音量での演奏時はホロウボディ特有のハウリングが気になるところだが、今のところスタジオのリハーサルや小さめのライブハウスでは問題はなかった。
楽器を買う上で大事なのはスペックではなく、ストーリーだと思う。
もちろん、楽器の工作精度や、道具としての性能は大事だ。しかしそれ以上に、その楽器を作った人の理念や音楽観、人生観といったものが自分と合っているかが一番大事だと僕は最近思っている。
花村さんという楽器職人そのものを好きになれていなかったら、きっとこの楽器は生まれていない。
そしてこの花プレシジョンは見た目、音、性能、限りなく100%満足している楽器といっていい。
ハナムラ楽器で、82歳の花村さんと |
花村さんいわく、アコースティックな楽器だから鳴るまでに4年はかかる、とのこと。
これから色々な現場で使われていくと思うし、一生大事にすることでしょう。
花村さん、本当にありがとう!!
0 件のコメント:
コメントを投稿