数年前、ある夏の日のこと。
当時、どうしようもないくらいに疲弊していた。
縋り付くものもなく、没頭することもなく、ただ漠然と広がる日常に突っ伏していた。
そんなある日、自分のスタジオにひとりの客人が訪ねてきた。
少なくとも、その日の要件としては飽くまでも自分はいちスタジオのエンジニアとして仕事を受けるつもりで応対していたので、客人のその言葉には驚いてしまった。
「私はあなたのファンです」
客人は続ける。
「あなたの音楽が大好きなのにもう聴けない。それがすごく悔しい。あなたの音楽を止めた人が許せないし、きっとたぶん、あなたよりもそれに対して怒っているんです」
その言葉の隅々に行き渡るような感情を、そのとき自分はすべて知覚して受け入れることができず「…すいません、でもありがとうございます」と口から滑り落ちるような言葉でしか返すことができなかった。
それから数年が経つ。
だけれどその後時間をかけて、その言葉のひとつひとつに宿った意味をいまは理解できているつもりだ。
自分のことについて自分より怒りを感じるほどに大事にしてもらったことを忘れてはいけない。
あの日の言葉を思い出す度に励みになっています。ありがとう。
0 件のコメント:
コメントを投稿