あれから少し間が空きましたが、Neumann U47型の真空管マイクを作ります。(作りました)
音響エンジニアなら機材の自作くらい出来て当たり前なので、前提知識はふっとばします。
今回はキットではなく、完全に1から自分で組み上げる必要があるので難易度は高い。
基本設計
以前書いた通りヴィンテージ五極管のVF14はもう入手できません。となると別の真空管を使う訳ですが、基本的にPelusoやWarmAudioのように双三極管を使うとメタル五極管と動作・音質が全然違うのでこれは選択肢から外しました。
採用する条件は今現在も入手可能な五極管で、gm(増幅率)を稼げてプレート抵抗を低くできるものです。
説明書付きEF800 |
そしてカプセルやトランス等のパーツを物色している最中、トランスメーカーAMIの創立者Oliver Archutが再設計したU47回路を発見し、そこでは古い五極管EF800(EF80)が採用されているものでした。
この五極管は海外のDIY勢の中で評価が高い球で、現行品はないものの生産数は多くU67に使われているEF86やEF806Sなどよりは安く入手できるという利点があります。
一応VF14と同系統のメタル管ではEF13とEF14がありますしこれもまだ入手が可能ではありますが、基板付できるソケットはなく、形状的にマイク筐体の中に収めるのに工夫が要るなと思ったので今回は候補から外しました。(結局この球もあとで買ったんですが…)そういうことで、球はEF800を使います。
ちなみに都内某専門店を回ったところ、TelefunkenのNOS品が2本だけ入手できました。国内を探し回って手に入ったのはたったの2本。EF800は日本ではかなりマイナーな球なので入手は難しいですが、同等品の6BX6という国産品もあり、こちらはかつてテレビの音声増幅用に使われていた球なので容易に入手できます。今後も保守用が手に入るというのは大きなアドバンテージです。
回路とか部品とか
基本的にOliverの回路を基本採用しつつ、使い勝手や電源の仕様に合わせてアレンジ。パワーサプライは1から作るのが面倒だったので先日作ったU67クローンのパワーサプライを流用します。なのでB+電源=120V、ヒーター=約6Vという電圧条件で設計しました。
U47風のマイクボディ |
カプセルとトランスはU67キットと一緒に購入したK47タイプとBV8のミニサイズトランスを使います。筐体は海外のDIY用に売られているロングボディのU47筐体が普通に買えたので別途通販で購入。
マイク筐体の内部の大きさを手作業で測りつつ、部品を載せる基板をKiCADで製作。基板はelecrowの1ドルキャンペーンを駆使して、実質2500円くらいで本体の基板は完成。ほぼ送料のみですね。
基板は2週間しないくらいで届き、部品も揃ったのでさっさと組み上げましょう。
(ちなみにこれらの部品がとりあえず揃ったのが去年の12月頃だった記憶が。忙しくてなかなか手がつかなかったんですね)
組み上げと問題発生
製作は部品点数が少なかったので2時間ほどで終わりました。
ちなみに抵抗やコンデンサ等の受動部品は少しだけNOSパーツを使いましたが(カップリングだけ古いERO)基本的に現行品で入手できるものをチョイス。あまり拘り過ぎると次回製作したときに条件が比べづらいので。
ゆとりを持って部品なども配置していたのであっさり組み上がり完成。
ついでに7pinマイクケーブルもmogami線材で新規に作りました。
見た目はロングボディU47感 |
こんな感じ。まあそれっぽくなったんじゃないでしょうか。
見た目はそのまんまU47ですが、指向性は単一指向性(オムニ)固定です。これは、この筐体のスイッチ部分がダミーになっていて、本体にスイッチを取り付ける機構がないため。後でリレーを内部につければPSU側で双指向性にはできる。
パワーサプライに繋いで、さっそく音のチェックしましょう。
30秒ほどで真空管のヒーターが暖まると、音が出力された。
一発で動作!…はしているけれど
めちゃくちゃs/nが悪い。
ぱっと聴く限りマイクそのものの音色はいい感じだけれど、常にバックグラウンドでホワイトノイズが薄っすら乗ってしまっている。ローゲインならギリギリ気づかないくらいだけれど、プロの道具としてはよろしくない。
原因を探るべく色々やってみることに。
B+電源にリップルが残っているのではないか? >測定して問題なし
ヒーター電源にリップルが…… >問題なし
筐体やシールディングが甘いのでは…… >問題なし
原因がさっぱり分かりません。ブーンという低周波のハムノイズなら電源由来のリップルですが、シュワーっとしたノイズ。部品の定数を変えたり、配線をやり直したりしてみたものの、経験上何が原因か分からず、完全に詰みました。
結局その時点では解決できなくて数ヶ月放ったらかしました。
果報は寝て待てと言いますしね。
問題解決
そしてつい先日、ぼんやりとGroupDIYを眺めていた時に頭に閃光が走る。
ベースにしているOliverの回路はオリジナルのU47をリスペクトしていて、カソードにヒーター電源を接続して電圧を嵩上げし、カソードへバイアスしている。この方式だとヒーター経由で熱雑音含め、何かしらのノイズが乗るのでは……?
もしそうならば、ヒーターバイアスではなく一般的な自己バイアスに変更すればヒーターの影響が無くなるはず。
さっそくバイアス抵抗を取り払い、カソード抵抗を自己バイアスの値に変更する。そしてそのまま電源投下。
マイクからびっくりするほどノイズのない美しい音が出た!!
これはリカバリー成功ですね。
バイアス方式を変更するというのは(元の回路が完成されていたぶん)盲点でこれに気づかず5ヶ月近く悩んでいたのか…と思いましたが、時には解決に時間も必要。結果良しとしましょう。
肝心な音・まとめ
自作とは思えないほどいい出来です。率直に言えば美音。
U67に比べると繊細というか、高域がサラっとしていてだいぶリッチな印象。ダイナミクスも十分に拾って表現してくれる。もちろん既製品のような高域のギラギラ感はなく、かといって甘すぎることもなく。そのバランスがだいぶいい感じ。(逆に言えば、なんでこの質感が出るマイクが市販品にねーんだという)
レベルが大きく入ってちょっとサチュレーションしたときの印象がU67とけっこう違います。U67は太く芯があるような力強いニュアンスになるけど、U47はちょっと上品な感じにキラっとしつつつ、ブワッと面でも強く出る感じ。繊細な女性VoなどはU47のほうが映えそうだ。
無事実用レベルのマイクが完成したことを故Oliverに感謝。
今後やりたいこと
・PVCフィルムのM7カプセルに換装
・真空管をメタル真空管のEF13や14に変更
このへんでまだまだパワーアップできる余地がありそうなので、内部の部品含めちまちまいじっていくと思います。
ひとまずキットではない1からの真空管マイク製作は無事成功といって良いんじゃないでしょうか。
おしまい。
追記:回路図とtipsはnoteの同エントリの最後に書きました。
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